逃げてドラ猫 #12「最強の目覚まし時計」

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 あぁ、最強の目覚まし時計が欲しい。最近、切にそう願っています。そして私はこの願望を一生追い続ける運命なのでありましょう。

 


 最強の目覚まし時計が欲しい理由。それは単純で、このごろ朝の目覚めが悪いと感じているからです。寝ようと思ったら余裕で12時間寝れてしまうし、授業に遅れてしまうこともしばしば。早起きをして有効活用するはずであった時間も、すべて睡眠の泡と消えます。QOLからほど遠い生活。生産性ゼロ。スタバでMacBookを開いている人間とかにこの生活を見られてしまったら、私は満面の笑みと共に見下されるに違いありません。

 

 私だって起きる努力はしています。アラームは10分おきにセットしたり、日が昇れば日光が入るようにカーテンを少し開けて寝たりしているのです。時間通りに起きるためには多少のプライバシーの露出もいとわない覚悟なのです。

 


 それなのに、睡眠の神は応えてくれない。予定起床時刻をとうに過ぎ。確実に聞いていたはずのアラーム音は私の記憶からすっぽりと抜けています。脳内にぼんやりとあるのは、さっきまで見ていた夢の記憶だけ。最近は、「先輩のマリオカートのプレイを後ろから褒め続ける」という夢を見ました。こんなの睡眠している意味がありません。疲れます。

 


 1日のスタートダッシュが上手くいかないと、その日はずっと憂鬱な気分で過ごす羽目になります。「寝落ちして課題ができなかったー!」とかになると最悪ですね。学校に行かずに海とか行きたくなります。派手なレッドの救命胴衣を着てバナナボートに乗り、爆速で水面を移動しながら浜辺の観光客に中指を立てるのです。

 


 でも実際はそんなこと出来るはずがなくて、寝起きにつまづいたらその日はずっとブルーな気分で過ごすしかありません。そんな日が増えてきた今日この頃です。

 


 こんな生活はもう懲り懲りなのです。私の理想は、朝は日の出と共にビシーッと起きて、課題やら趣味やらの「朝活」をし、朝ご飯には何かしらの卵料理を食べて、爽快な気分で家を出る。そんな感じの生活をしたいのです。毎日必死に生きている私の人生、そういう生活があってしかるべきなのです。スタバでMacBookを開いている人間とかとタイマンをはれるような生産性を身につけたいんです。

 

「あらあら! 貴方のダークモカチップフラペチーノがまるで泥水のようね!」

 


 これは私が勝ったときに言う捨て台詞です。

 

 こんなカッコイイ台詞を言いたい! 出来ればヤッターマンのドロンジョ様のような格好をして言いたい!

 


 そのためには、「最強の目覚まし時計」が必要なのです!

 


 私は今までの人生で、「最強の目覚まし時計とはいかなるものか」という人類史上最大の問題について考えを巡らせてきました。

 


 いくら大きな音でアラーム音を鳴らしても、深い眠りに落ちている状態では意味を成しません。ですので、音を使う作戦はナシです。代わりに何度も浮かんでくるアイデアが、「水」を利用した目覚ましです。

 


 大人気YouTuberグループ「東海オンエア」のサブチャンネル・「東海オンエアの控え室」の動画に、「寝顔に水」というシリーズがあります。その名の通り、寝てるメンバーの顔に水をかけて起こすという悪戯動画なのですが、これがまあ一瞬で起きるんです。どの動画でも、水をかけられた瞬間に身体をビクッと反応させて目を覚ますんです。

 


 これは、目覚まし時計における「水」の有用性を示す貴重な参考動画です。時間になったら水が噴射されるような目覚まし時計があれば、毎朝パッチリと目覚めることができるはずです。そういう目覚ましを作れば良いじゃん!

 


 しかし、ここで2つの壁に当たってしまいます。1つ目が「ベッドを濡らしたくない」という壁で、2つ目が「そんなの作る技術ない」という壁です。どちらも壁と呼ぶにはスケールが小さすぎる気がしますが、小心者の私からしてみれば十分「壁」でございました。よって水作戦もナシです。部屋汚すの駄目。気持ちよく目覚めても、部屋が汚れてしまえばそれはそれでテンションが下がりますから。

 

 であれば、最強の目覚まし時計とは何だろう……? 音を使わず、部屋を汚さず、それでいて気持ちよく目覚めることが出来るような……。

 


 よし。「脳に直接つないで、朝になったら身体を勝手に起こしてくれる目覚まし時計」がいいでしょう。これが恐らく最強です。私はテクノロジーの緩みない発展を妄信しています。科学的知見と想像力に乏しい私が想像する科学の最先端は、「脳にケーブル」のみ。ならばそれを目覚まし時計にも当てはめるのみなのです。

 


 脳に直接刺激を与えて起こしてくれる目覚まし時計、その名も「スッキリ脳味噌くん(通称「脳味噌くん」)」がここに誕生しました。簡単に機能をご紹介して、そんな目覚まし時計が実現される明るい未来を想像しながら今回は終わりにいたしましょう。

 


 脳味噌くんの取り付けは簡単で、国民全員に装備が義務づけされた耳の裏のUSB Type-Cコネクタにケーブルを差し込めば完了です。寝ている間にコードが外れてしまわないように、しっかりとネジ固定を行いましょう。

 


 取り付けが完了したら、あとはスマホでアラームをセットする時と同じような操作をするだけ。脳味噌くんのタッチパネルから時刻を設定し、セット完了です。

 


 準備はこれで完了です。あとはもう寝ましょう。ゆっくり夢でも見ましょうや……。

 

 


 

 

 ………い! じょ………です!
 ……おお! いまの……リング!
 せんぱ……ごいっすよ!

 

 

「先輩、マリカー上手いっすねぇー!」

 


「そお?」

 


「出たっ! 内角をえぐるようなコーナリング! すごいっすよ!」

 


 私はまた、先輩のマリオカートを褒めていました。一人暮らしにピッタリな小さめのテレビの前、先輩は胡座をかいてコントローラーを操作します。私はその先輩の背中越しに、彼が操作するメタルマリオの大躍進を見守ります。

 


「あーっ、ミスった」

 


 勢い余ってコースアウトし、メタルマリオはジュゲムに引き揚げられます。私はさっと目を逸らして、何も見ていないフリをします。

 

 

 メタルマリオの無機的な叫び声が響き、先輩は1位になりました。まさに独走状態。

 


「やば! もう1位ですか!?」

 


「このまま行くよー」

 


「他の人やる気なくなっちゃうんじゃないですかー? 先輩が強すぎて!」

 


 余裕をぶっこいている中、水を差すように警告音が鳴りました。

 


「ああっ青コウラがぁっ!」

 

 

「ポーン」

 


 視界が突如として薄暗くなり、目の前に文字が浮かびました。

 


「もうすぐ6時です。夢はあと 10 秒後に終了します」

 


 一瞬、何が起こったか分からない私。粛々と進められるカウントダウンによって、脳味噌の冷たくなっていた部分が動き出します。

 


「ああ、これ夢か……」

 


「もうすぐ6時です。夢はあと 3 秒後に終了します」 

 


「もうすぐ6時です。夢はあと 2 秒後に終了します」 

 


 あー、学校行かねーとなー。

 


「もうすぐ6時です。夢はあと 1 秒後に終了します」

 


「もうすぐ6時です。夢はあと 0 秒後に終了します」

 


 そうして、視界は真っ暗に。

 


「おはようございます。今日も一日頑張りましょう」

 


 ピカッと視界が光ります。脳味噌くんに操作されて、まぶたが自動で開いたのです。朝の鋭い日差しが痛々しい。

 


 ドゥン!

 


「ギャ!」

 


 お次は電気ショックです。手足がビクンと跳ね、さながら釣り上げられたカツオの様です。睡眠という母なる大海から釣り上げられた、一匹のカツオです。

 


「あー、よく寝た。さぁて、起きるかぁ」

 


 口が勝手に動きます。これも、脳味噌くんに言わされているのです。スッキリとした目覚めを演出するための自己暗示です。

 


 二度寝を防ぐために、まぶたは閉じることが出来ません。ボンドで固められたように、まぶたはかっ開いたまま動かないのです。そのためまばたきも出来ません。目が乾いて涙が出てくる。脳味噌くんを解除しない限り、まばたきすら出来ないのです。

 


 私は脳味噌くんのボタンを押し、ネジ止めを外して頭からケーブルを抜きました。

 


 さぁ、朝です。気持ちの良い朝です。電気ショックのせいで、夢の内容も忘れてしまいました。

 


 

 以上、「スッキリ脳味噌くん」のご紹介でした。こんな目覚まし時計、誰か開発してください。

 



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