トーフ屋の夢ちゃん
序盤、3頭身サイズの波平とフネが登場する。私は幻覚を見ているのか、思わず目を擦ったが、どうやらカツオの妄想だったようだ。あぁびっくりした。新しいタイプのサザエさん症候群かと思った。
「僕が親だったら、子供にすぐおこづかいをあげるのになぁ」
とブツブツ文句を言いながら豆腐屋におつかいに行くカツオだったが、店内に小学5年生用の問題集が置いてあるのを発見する。どうやら、豆腐屋にはカツオと同級生の子供がいるようである。
翌日、花沢にそのことを話すと、「残念だけど、うちの学校じゃないのよ」と花沢。「残念だけどってことは、その子は女の子か」とカツオ。小学5年生にしてはお洒落な台詞回しである。
花沢の話によれば、その子は嫉妬してしまうくらい可愛いようで、これには後で話を聞いた中島も興味津々である。「新茶ですよ」の回から、中島には女好きのイメージがどうしてもつきまとう。彼はその眼鏡で何を見たいのだろう。
ここからは、カツオと中島による「豆腐屋の女の子に接近バトル」が開幕される。
カツオは、豆腐屋に買い物に行く機会を伺う。しかし、そう都合良く豆腐を食いたくなる磯野家ではない。お使いを利用して豆腐屋に通うのは無理があると睨んだカツオは、すぐさま隣の家のじいさんばあさんを訪問。「豆腐欲しけりゃ買ってきますが」と、驚きのコミュ力を発揮する。
幸運なことに、じいさんの好物は冷や奴であった。足腰が悪くて買い物に行くのも億劫だということで、カツオはあっさりと隣の家の豆腐配達係の座につく。彼は将来、あっという間に出世街道まっしぐらなんだろうなぁ。それにしてもこのじいさん、冷や奴が好物とはなんとも都合が良すぎる。元から冷や奴好きの設定なのだろうか。それとも、今回の展開のためにわざわざ冷や奴好きにさせられたのだろうか。私の中で、あのじいさんのピントが合わない。
見事豆腐屋にやって来たカツオだったが、なんとそこには中島が。彼は花沢からさっさと情報を収集し、豆腐屋の場所、そして豆腐屋の女の子の名前が「夢ちゃん」ということまでリサーチ済みであった。今日は夢ちゃんは塾に行っていていないらしい。「頭がよさそうな子」と、豆腐屋のおばさんに褒められる中島。なんて奴だ。
このままでは、中島に先を越されてしまう。カツオは翌朝、早起きして豆腐屋に向かう。隣のじいさんに豆腐を届け、「夢のようだ」と喜ぶじいさん。毎朝豆腐が届く夢ってなんだよ。どうやら、夢ちゃんには会えなかったようだ。学校が遠いから、早めに家を出ているのだろうか。家にもどり、家族には「ジョギングだよ」と嘘をつくカツオ。
登校中、カツオは中島と遭遇。
「お味噌汁の具が豆腐と油揚げだった」
「5年生用の参考書を貸して欲しいと頼まれた」
と、中島の攻撃2連発。頭が良さそうな見た目をしている中島が優勢か。負けるなカツオ。お前は隣のじいさんを利用して、毎朝豆腐屋へ行けるのだ。現地に足を運ぶのが何より効果的な策である。 しかし翌朝、家を出ようとしたカツオの前に、ジャージ姿のサザエ、マスオ、波平が。どうやらジョギングに付き合う様子。余計なことをしやがる。パニック状態に陥ったカツオ。うっかり「豆腐屋」の単語を口に出してしまう。「怪しい」と睨むサザエ。そこからは事情徴収タイムである。
しかし、サザエもマスオも波平も、「夢ちゃん」の存在を知っていたようである。どういう事であろうか。波平に連れられて、豆腐屋に向かうカツオ。
豆腐屋に到着した2人が見たのは、5年生用の参考書を読み込む、豆腐屋のおばさんであった。夢ちゃんとは、いつも豆腐を売ってくれたおばさんだったのだ。彼女は小学校時代、妹たちの世話をしなければならず、十分に勉強ができなかったそうだ。だからこうして、大人になってから小学生の勉強をしているのだと言う。
カツオ、すぐさまモードを切り替える。
「こんなかわいい小学5年生は見たことないよ」
と一言。
登校中、花沢に遭遇。
「小学生のころはすっごくかわいかったんだろうなぁ。だって心がかわいいんだから」
と、矢継ぎ早に褒め言葉を繰り出すカツオ。その姿に少しの恐怖を感じたのは私だけではないだろう。何だか、マシーンの様相なのだ。
遅れてやってきた中島。カツオはあえて、夢ちゃんの正体を言わない。中島はこの日、散髪と花束購入を済ませて豆腐屋に向かうようだ。
ひとこと多い人
おそらくサザエのことだろうと思ったら、案の定サザエのことだった。
磯野家は、サザエの一言多い口にうんざりしているようだ。
何もない頭にクシを当てて「決まらんなぁ」と悩む波平に、
「どうせ何も変わらないんだから無駄よ」
と一言。
珍しくテスト勉強を張り切るカツオにおつかいを頼み、
「どうせ行きたくないから勉強しているふりしてるんでしょう」
と一言。激高するカツオ。一言多いというより、シンプルにひどいことを言っている。
家族からのクレームを受け反省したサザエは、それから口数を減らすようになる。
家に帰ってからすぐに野球をしに行くカツオを見ても、「勉強しろ」と注意せず、「行ってらっしゃい」と一言。
今夜は飲みに行くから遅くなる、と電話をしてきたマスオに、「飲み過ぎないでね」とも言わず「楽しんでね」と一言。
野球から帰り、そのままテスト勉強をサボろうとするカツオにも何も言わない。
こうして、磯野家のバランスが崩れていく。
ワカメが部屋に入ると、そこにいたのは机に向かうカツオ。
「えっ。お兄ちゃんが勉強してる」
と失礼なリアクションをするワカメ。サザエにとやかく言われるのは嫌だが、かといって何も言われないのも調子が狂うようだ。
翌朝、昨晩飲み過ぎてしまったと言うマスオと波平。
「優柔不断な僕にとっては、サザエみたいに言ってくれる方がありがたい」
と漏らす。
カツオのテストの点数は、65点であった。本当に微妙な点数ではあるが、カツオにしては上出来だそうだ。
しかし、カツオは喜べない。なぜなら、「こんな点数をとってしまえば姉さんのお口チャックが継続される」からだと言う。
どうやら、サザエの口数を減らす作戦は家族全体を疲弊させていたようだ。「いつものサザエに戻ってくれ」と、世にも奇妙な物語みたいな台詞を言う一同。サザエは無事、口数を減らすのをやめた。よかったね。
迷い込んだお客様
磯野家は、道に迷っている人に道案内をするのが好きなようだ。声をかけられずとも、迷っていそうな人には率先して道案内をするようである。ちなみに私は、道案内を頼まれたことが一度も無い。地図に弱いので願ったり叶ったりではあるが、ふとした瞬間に寂しさが襲う。
道案内をするといっても、正しい道を教えてあげられるかどうかは別なようだ。サザエは案内をしているうちに自分も道に迷い、マスオは間違った道を教えて余計に迷わせた経験があるという。
しかし、進んで人助けをする2人に心を動かされたワカメ。自分も道案内をしようと、迷っている人がいないか外に探しに行くという暴挙に出る。それっぽいおばあさんを公園で発見し、
「道に迷っていませんか?」
と捉え方によっては無礼ともいえるファーストコンタクトを試みるが、おばあさんはただ首の体操をしているだけだった。彼女は熱心に己の首をほぐそうとしていただけであり、決して迷ってなどいなかった。
ある日、磯野家にネコが迷い込む。誰かさんの飼い猫だろうが、近所を聞いて回っても飼い主が見つからない。しばらく磯野家であずかることになり、カツオとワカメは飼い主を見つけるためにチラシを作成する。なんだかとても充実した日々を過ごしていて、羨ましい。
三河屋のサブちゃんに話を聞くと、どうやら「ネコ屋敷」と呼ばれる豪邸があり、ネコ好きの家主が沢山のネコを飼っているらしい。さっそく向かったサザエ。宮殿のような豪邸の中、たくさんのネコが座っている。
しかし、全部ぬいぐるみであった。怖えよ。
後日、花沢さんから電話がかかる。どうやら飼い主が見つかったようだ。男の人が磯野家に向かうらしいが、いつまで経っても来ない。彼もまた、道に迷ってしまったのか。こんな具合では、この町の都市計画が破綻していると言わざるおえない。 急いで男の人を探すサザエ、カツオ、ワカメのトリオだったが、マスオに遭遇。なんと、飼い主の男の人を連れていた。やはり彼も道に迷っていて、マスオは案内してあげたようだ。
無事飼い主の元に帰れたネコ。
「これからも迷ってる人に声をかけていきましょ」
とサザエ。
「姉さんは人の心配をするより自分の心配をしたほうがいい」
とカツオ。お決まりの流れである。
後日、磯野家の玄関にとある女性がやって来る。サザエを探しているらしいが、あいにく彼女は出かけている。カツオがサザエの所まで案内するが、「こっちの方が近い」と小学生にしか易々と通れないような険しいルートを選択する。女性はヘトヘトになりながらサザエの元に向かう……。
というオチであったが、この女性、どこか見覚えがある。
そう、イカ子である。「即断、即決の人」回で登場した、サザエの独身時代の親友・イカ子である。
ちなみにこのイカ子の服装とポーズは、原作を完全再現している。是非写真付きで解説したいのだが、私の中のネットリテラシーがそうはさせない。ぜひ、自分の目で確認してほしい。
私はすっかり感動してしまった。「イカ子だ!」と手を叩いてしまった。どうやら、サザエさんにもこのような原作を元にした小ネタが仕込まれているようだ。我々が普段見ているサザエさんは、ほんの氷山の一角に過ぎないのだ。
じゃんけん
チョキで勝利しました。