逃げてドラ猫 #22「ギャラリー・ボランティア」

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私の通っている大学にカービィがいます。


こちらの写真をご覧ください。

 

 


見ての通り、カービィがいますね。その隣にはミニオンもいますが、彼は最近になって出没した新入りです。隣にいるカービィの色のくすみ具合を見てください。まさにベテランといったオーラを漂わせています。ベテランっていうか老兵っていうかボロいって感じですが、なかなか味のある風貌だと思います。

私の記憶が正しければ、このカービィは私が入学したときからいました。「いる」よりも「閉じ込められている」という表現の方が合っているかもしれません。窓ガラスとブラインドに挟まれた狭いスペースから出ているのを一度も見たことがありませんから。


初めて見たときはちゃんと窓の外を向いていたのですが、気づけば写真のように下を向いていました。まるで段々と元気がなくなっているようで、見ていてなんとも言えない気持ちになります。このカービィは明らかに空腹状態ですね。「み、みず……」と言っているような気がしてなりません。隣のミニオンもいずれこうなるのでしょうか。


なんだか怖い雰囲気になってしまいました。何回捨てても戻ってくる人形みたいな、そういう不気味さすら感じ取れます。


と、とにかく、大学の構内にこうやってカービィのぬいぐるみが飾ってあり、私はその前を通る度に「おっ、カービィがまだいる」と楽しんでいる、という話です! いやぁ、そろそろ洗濯してもらえたらいいですね!


それにしても、どうしてこうやってぬいぐるみが飾ってあるのでしょうか。窓の向こうがどんな部屋なのかは分かりませんが、普通ぬいぐるみを飾るなら部屋の中に置きません……? どうしてまた窓枠なんかに。冬なんて結露でビシャビシャになってしまいます。

部屋の主がよっぽどカービィとミニオンが嫌いで憎くて「刑」として置いているのでない限り、これらのぬいぐるみは通行人に「見せる」ために置かれているのだと思います。

「みて、かわいいぬいぐるみ。道行くアナタにも見せてあげるワ」


と、心優しきお姉様が粋な計らいをしてくれたのでしょう。でないと、顔を窓の外に向けて置くような真似はしません。


実際、私はこのカービィとミニオンを見る度に「おっ、いるね!」と心が動かされていますし、いざいなくなったら想像以上に寂しい気分になるに違いありません。私が生きている世界がジグソーパズルのようなものだとしたら、既に彼らは立派な1ピース。彼らが日常からいなくなれば、私は彼らの分だけ凹みが残った不完全な世界で生きていかなければならないのです。想像しただけでゾッとします。


そう思うと、このカービィとミニオンは私の人生を確実に「豊か」にしてくれているのです。カービィが色あせていけばいくほど私は「おいまじで洗ってやれよ」と思うわけで、ちゃっかりとこの状況を外から楽しんでいるのです。カービィからしたら何とも合点のいかない状況ですが、これも1つの運命(さだめ)と言えましょう。


きっと私と同じようなことを考えている人は沢山いて、この窓は道行く人の心を豊かにする「ギャラリー」としての機能を果たしているといえます。この世界はそういうものに溢れていて、素敵だなぁと思います。


皆さんも同じような経験はないでしょうか。例えば、通学路の途中にある家の窓から見えるポスターが気になったり、窓枠に大量のスヌーピーグッズが並べられているのが見えたり……。そういったものは見る人を「おっ!」と思わせ、日常に彩りを与えてくれる天然のギャラリーです。「人の家をじろじろ覗くなよ」と言われてしまったらもう謝るしかないんですけど。


先ほど紹介したカービィの他にも、思わず気になってしまった天然のギャラリーの思い出があります。


私がまだ地元で受験生をやっていたころ、よく夜になると休憩がてらに散歩をしていたのですが、その道中にとある会社があったんです。


トラックが行ったり来たりしていたので多分運送業者だと思うんですけど、どんな事をしている会社なのかは良く分からないまま前を通っていたんです。決して大きくはない建物で窓のブラインド越しにちらっと中が見えたんですけど、なんと、室内がピンク色に光っていました。真夜中の、中に誰も人が居ない時間帯に。


「えっ。これはもしや色っぽいお店か!?」

と、受験のストレスが溜まった大越少年は当然そう考えたのですが、この少子高齢化マッハGOGOのド田舎にそんなお店を作ったとて稼げるはずがありません。中から人の声はしませんし、そもそも人影が皆無なのです。

なんだろう、と思ってブラインドのすき間をじーっと見てみると、光の正体が分かりました。


パソコンの画面でした。ピンク色の何かを映したパソコンが、電源を切られることなく真夜中にずーっと光っているんです。もちろん、誰かがデスクに座っているわけでもありません。建物の中で動いているのは、そのパソコン1つだけ。その日だけではなくて、来る日も来る日もピンク色の画面は光っています。


恐らく、このパソコンの電源は切ってはいけないルールになっているのでしょう。でも、「あるパソコンの電源を切ったら会社のシステムがダメになる」って、いくら田舎だからといってセキュリティがお粗末すぎやしませんか。雷が落ちて停電したらあっという間に倒産なんて、梅雨の季節はどんな気持ちで仕事すればいいんですか。


パソコンは年中点いてますが、そんな「セーブできない状況だから一旦DSの電源切らないでおく」みたいな理由で点いてるとは思えません。結局真相は分からないまま、散歩のたびに「あぁ、今日もピンクだなぁ……」と感じていたのです。これもまた、無意識のうちに生まれた天然のギャラリーですね。私の心をピンク色に彩ってくれました。


このように、天然のギャラリーは見た人に思い出を残してくれます。気づかないうちに人に元気を与えていたなんて、やっぱり素敵です。


しかしこれ、やろうと思えば出来るはずです。一人暮らしの私の家にだって窓くらいはあります。窓に何か特徴的なものを飾れば、それを目にとめた道行く人の思い出になれるはずなのです。こんな私でも、誰かの生活を彩れる……!


道行く人の日々を無償で彩るこの活動。通称、「ギャラリー・ボランティア」の誕生です!


何だかワクワクしてきました。でも、何を飾ろうかという問題があります。私の部屋にはカービィもミニオンもいませんし、これといって元気が出るアイテムのない寂しい部屋です。


なら、何かを作るか……?


1つ、思いついたのがあります。それは、「日曜憂鬱通信」の宣伝横断幕をベランダに飾るという計画です。


「憂鬱な日曜午後に! 日曜憂鬱通信!! このQRコードを読み取ってね!」


みたいな文句と可愛い美少女イラストが書かれた横断幕を、ベランダに掲げるのです。自分の家なので広告料はタダ。かなりの集客が見込めます。


しかし、ボランティアという割には商業的すぎて当初の目的から外れている気がします。あと、集客が出来たとて「この記事を書いたやつはあそこに住んでるのか……」と100%で住所がバレてしまいます。

すみません、やっぱり止めようと思います。


 



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